場の古典論《32節》エネルギー・運動量テンソル

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▷ラグランジアン密度と最小作用の原理
▷電磁場のラグランジアン密度Λの場合
▷エネルギー・運動量密度テンソルの導出
▷場のエネルギー運動量テンソルTikに係る保存則
▷粒子系のエネルギー運動量テンソル
▷場のエネルギー運動量テンソルの解析の再開
▷テンソルφikmを微分した項の追加
▷角運動量テンソルの保存

【場の古典論】
【第4章】場の方程式
【第32節】エネルギー・運動量テンソル
《ラグランジアン密度》
 x方向の「ひも」のy方向の運動をあらわすことを考える。質量M/nを持ったn個の物体がx方向の長さaのバネでつながれて並んでいる。この鎖状の構造体は左右から張力Tで引っ張られているとする。この中の質点の一つだけをy方向の上か下に少しだけ移動させた場合を想像する。物体間の距離がaであり,物体が上にdyだけ移動したとする。dyがaに比べて極めて小さい場合は張力はTとほとんど変わらない。「ひも」の張力のベクトルのy方向成分を考える。


dyがaより十分小さい時には点Bをy方向へ動かすために点Aから働く力は-T(dy)/(a)であると言える。その逆に、点Bから点Aに対して力が働くとも言える。dyが0に近いと力が働かない。dyの2乗に比例したエネルギーが点AB間のバネに蓄えられると言える。それから、以下のラグランジアンLが考えられる。

第 1 項は「全質点の運動エネルギー」である。第 2 項目は張力の項である。隣どうしの質点の,それぞれの変位の差をYとしたとき,Yに比例した復元力-kYが働く。ここで書いた係数kの正体はT/aである。
 次に、y(x,t)は連続関数であると考え、x軸に沿って連続的に和を取る積分記号に置き換える。aをdxと全く同じものだと見なす事で対応する。

この最後の式の積分の中身は「ラグランジアン密度」Λと呼ばれている。

このようにして一旦ラグランジアン密度Λを求めることができたならば、以下の、「場の古典論」32節の計算方法によって、速やかにラグンランジュ方程式(32.2)を得ることができる。

《32節の議論の大前提》
 先ず、空間が一様かつ等方的であり、時間も一様である性質を持った慣性系で記述することを大前提にして考える。

 空間と時間の一様性は、ラグランジアンが3次元座標の変数と時間の変数をあらわには含まない(循環座標)ことを意味する。空間の等方性は、ラグランジュアンが4次元空間の回転角度にかかわる変数をあらわには含まない(循環座標)ことを意味する。

 最小作用の原理を用いて場の方程式を求めるには、
以下の作用積分S、すなわち、ラグランジアン密度Λの積分Sを求める。ラグランジアン密度Λは、一般化座標(系のパラメータ)の一種の、場のベクトルポテンシャルの成分などの場のパラメータqと、そのパラメータqの4次元座標方向での微分量q,i のパラメータであらわす。パラメータq,i は、ラグランジアンLをあらわすパラメータの1つの、一般化座標qの時間微分(速度)に対応する。すなわち、ラグランジアンLでの時間軸の方向を、ラグランジアン密度Λでは全ての4次元座標方向に拡張して対応させる。
 このように、慣性系を記述する一般化座標のパラメータとして、4次元座標の関数の場のパラメータqを用いる。更に、複数の粒子の各々の3次元座標の変数xk と時間の変数tも併用する。ただし、ラグランジアンLが3次元座標の変数xk と時間の変数tをあらわには含まない(循環座標)ので、ラグランジアン密度Λは、3次元座標の変数xk と時間の変数tのパラメータをあらわには含まない。ここでは、更に、粒子(電荷)の無い場合を考えることにして、ラグランジアン密度Λには、3次元座標の時間微分=粒子の速度vk  のパラメータもあらわには含ませないことにする。

この作用積分Sに対して最小作用の原理を適用する。
(なお、上記の式では表示の簡単化のために、複数個の場のパラメータを1つのパラメータqだけで表して、他のパラメータを省略している)

 「場の古典論」では、作用積分の領域の時間的境界面に、場のqを固定している。最小作用の原理を適用するイメージとして、下図のx,y,z,tの4次元空間(z軸は図示しない)内の場のパラメータqを考える。

  この4次元空間の時間軸方向の大きさは、時間軸方向での最初の時刻と最後の時刻との間の時間Δtの大きさを持つ。この4次元空間の3次元空間座標軸方向の大きさは、時間軸方向の大きさΔtの光速度 c 倍のcΔtよりも十分に大きく、ほぼ無限遠に至るまで大きくする。場は光速度で伝わるので、場の存在する領域から光速度で達する領域よりも外の領域には場のパラメータqが存在しない。すなわち、4次元空間の3次元空間座標軸方向の十分に遠方の端では場のパラメータqが存在しない。そのような4次元的な直方体の領域を考える。
 その4次元的な直方体の時間軸方向での4次元的な境界面(与えられた最初の時刻での3次元空間と、Δt後の最後の時刻での3次元空間)に、場のパラメータqが固定されている。  
 ラグランジアン密度Λを、場のパラメータqと、その4次元座標方向での微分量のパラメータq,i を使ってあらわす。 そして、上図の4次元的な直方体内のラグランジアン密度Λを積分して電磁場の作用積分Sを求める。
 その作用積分Sの値が最小になるように、場のパラメータqの、各時刻と各位置における値を定める。

 その作用積分Sの変分δSが以下の式で計算できる。

 次に、第1項の積分ガウスの定理を適用する。


 先ず、第1項での4次元的境界面のうち、3次元座標の積分の限界である、3次元空間でほぼ無限遠方の4次元的境界面の位置では、場のパラメータqはゼロである。
 次に、第1項での4次元的境界面のうち、時間方向の積分の限界の4次元的境界面は、与えられた最初の時刻の3次元空間(4次元的境界面)と、最後の時刻の3次元空間(4次元的境界面)である。それらの4次元的境界面においては、場のパラメータqがその4次元的境界面(3次元空間)に固定されている。そのため、その時間方向の4次元的境界面(3次元空間)では、qの変分δqがゼロである。
3次元空間の無限遠方での4次元的境界面においても、最初の時刻および最後の時刻での4次元的境界面においても、第1項の被積分関数が0になる。そのため、第1項が消えて以下の式になる。

最小作用の原理による変分δqは任意であるから、δqの係数をゼロに等しいとおかなければならない。結局、次の”運動方程式ラグランジュ方程式”、すなわち場の方程式:

が得られる。この式(32.2)は、(ラグランジアンLの速度vでの偏微分であらわされる)一般運動量の時間微分が、(ラグランジアンLの一般座標での偏微分であらわされる)力Fになることをあらわすラグランジュ方程式に対応する。
 このラグランジュ方程式(32.2)を最小作用の原理により変分法で求める手順は、第30節の変分法で、一般座標qを(場のパラメータ)にし、 δ(場のパラメータ)を掛けている式を取り出してラグランジュ方程式とするのと同じく、δ(場のパラメータ)を掛けている式を取り出して場の方程式を得た。第30節では、ラグランジアン密度Λの内容が定まっていたが、32節では、ラグランジアン密度Λの内容が定まっていない場合にも、ラグランジュ方程式(32.2)が求められた。このラグランジュ方程式(32.2)は、場のラグランジアンに限定されず、一般座標の関数の密度分布を持つ粒子系のラグランジアンにも適用できる。

《電磁場のラグランジアン密度Λの場合》
 以上でラグランジュ方程式(32.2)を得た。以下では、電磁場のラグランジアン密度Λを、このラグランジュ方程式(32.2)に代入して電磁場の方程式を再現してみる。



以上の計算により、方程式(32.2)のラグランジアン密度Λに具体的な電磁場のラグランジアン密度Λを代入すれば、第30節の計算結果と同じ電磁場の方程式が得られることが確認できた。

量子力学の電子場の方程式についても電磁場と同様》
 量子力学のディラック方程式の解説を見ると、(ディラックの波動関数の確率密度が、ローレンツ変換される4元ベクトルを構成する(7.127))。その4元ベクトルである確率密度の場を、電磁場の4元ベクトルの場Aに対応させて電磁場と同様に確率密度の場に係るラグランジアン密度Λを導出できると考える。そのラグランジアン密度Λを使って、電磁場の方程式と同じような、電子の波動関数の確率密度の場の方程式を求めることができると考える。

《エネルギー・運動量密度テンソルの導出》
 ラグランジュ方程式(32.2)を利用して以下の計算を行なう。ラグランジアンLの空間座標xでの微分が力Fである。Λがラグランジアンの密度なので、Λの空間座標xでの微分が力f(それは一般加速度ωに比例する)の密度に関係する。また、Λの時間tでの微分は、力のする仕事の密度に関係する。それらの量を計算していく。



こうして、ラグランジュ方程式(32.2)から、式(32.3)で定義されるテンソルTを使った4次元の発散が0になる方程式(32.4)が導き出せた。
  ラグランジアンLの(dq/dt)=vによる偏微分は運動量pになるラグランジアンLでの時間軸tの方向を、ラグランジアン密度Λでは全ての4次元座標方向に拡張して対応させるため、Λの(∂q/∂(xk))による偏微分はLの(dq/dt)による偏微分に対応し、その偏微分結果は運動量密度に対応すると考えることができる。そう考えると、テンソルTの式(32.3)は、「力学」40節で、ラグランジアンLを使ったハミルトニアンHの式(40.2)に似ている。 そのため、このテンソルTは、ハミルトニアンHに対応する、エネルギー・運動量密度のテンソルに相当すると考えることができる。以下で、このテンソルTを元にしたエネルギー・運動量密度テンソルを定義していく。

《場のエネルギー運動量テンソルTikに係る保存則》
 4次元の発散が0になる方程式(32.4)から、場のエネルギー運動量テンソルTik に係る保存則(エネルギー保存則と運動量保存則)が導き出されるをことを以下で示す。
 既に最小作用の原理によって場のラグランジュ方程式が得られている。そのため、以下では、座標の関数として表されているラグランジアンや作用や場の量、式(32.4)の項の量を扱う計算をする。 4次元空間において、式(32.4)の項を4次元体積積分した式をガウスの定理で変換することによってテンソルTに係る保存則が導き出される。
 32節では、この4次元空間での積分領域は29節での積分領域と同じであると示唆している。また、29節の積分は、最小作用の原理を適用するための積分では無く、既に得られた場の方程式に従う場を4次元空間で積分変換しているのである。32節で29節のどの説明を指摘しているか、あいまいでわかりにくい。32節の意図は、式(32.4)のように4次元発散が0になる場合には、29節で簡単に説明されたネーターの定理の手順に従うと保存法則が導出できることを指摘しているのである。そのため、以下で、29節で簡単に説明されたネーターの定理の手順に従い、式(32.4)から保存法則を導出する。先ずは、その4次元空間での積分の領域の定義を詳しく説明する。
 その4次元空間の積分領域は、下図のように、時刻tが概ねaである、時間軸方向に概ね垂直な第1の4次元的境界面と、時刻tが概ねbである、時間軸方向に概ね垂直な第2の4次元的境界面と、それ以外に、空間座標が無限遠方の空間座標方向の6つの境界面で囲まれる4次元領域で積分する。

ここで、ラグランジアン密度Λが、座標の関数として与えられているということを前提に計算する。そのラグランジアン密度Λは無限遠では0であるものとする。第1と第2の4次元的境界面では各々、その4次元的境界面上の任意の2点の世界間隔は空間的であるものとする(ただし、境界面上で局所的な2点の間の世界間隔が時間的であっても良いものとする(この例外条件が、この4次元的境界面の説明を難しくしている))。そして、その空間的な4次元的境界面は、3次元空間方向では無限に広いものとする。その空間的な4次元的境界面の微小部分をdSk であらわす。

(空間的な4次元的境界面(超曲面))
 第1と第2の境界面(超曲面)が空間的であるという意味は以下の意味である。すなわち、3次元空間内の全ての粒子の世界線がその4次元的境界面に交差し、その世界線が境界面の過去側から未来側まで通過するように、4次元空間に配置した境界面が空間的な超曲面である。

 第1と第2の空間的な4次元的境界面(超曲面)での積分は3次元体積での積分である。第1の4次元的境界面での微小部分d(Sk)の3次元体積積分の結果は、第2の4次元的境界面での微小部分d(Sk)の3次元体積積分の結果に等しい。そのように空間的な4次元的境界面での超面積分である3次元体積積分の値が同じ値に保存される。それを以下の解析(ネーターの定理の手順)で導き出す。

この式の右辺を、以下のガウスの発散定理の式に代入する。

0=右辺の式から、以下の結果が得られる。先ずは、空間的に無限遠方では、場が存在しないので、Tik が0になるものとする。

すなわち、第1の空間的な4次元的境界面での体積積分d(Sk)と、第2の空間的な4次元的境界面での体積積分d(Sk)が等しい。空間的な超平面での積分(体積積分)が保存する。
 第1の空間的な4次元境界面と第2の空間的な4次元境界面とは、時間方向で隔たっている。そのため、その境界面での積分の値が、時間を隔てても変らないことになる。すなわち、境界面での積分の値は時間の経過にかかわらず保存されるという保存則が存在することをあらわす。
 この保存量の式は以下の式に整えることができる。

上の式は時間軸に垂直な超平面での積分である。下の式は、4次元空間で凹凸のある空間的な超曲面での積分である。空間的超曲面とは、x座標方向とy座標方向とz座標方向では無限遠までの広がりがある、空間的な4次元的超曲面(微小領域dSk≒dS0)の領域での体積積分である。
 このベクトルPi は、系の運動量の4元ベクトルと同一のものとみなされなければならない。われわれは、以前の定義にしたがって、この4元ベクトルPi の時間成分P0が(系のエネルギー)/cに等しいように、上式で積分の前に加えた定数因子constの値を定める。
《大切な注意》
 ここで、このように4次元曲面での積分によって系のエネルギーを定めるということは、系のエネルギーを集中させる特異点を排除して計算することを意味する。ラグランジアン密度Λに特異点を持たせないならば、特異点に置いた電荷の近傍の空間で場の強さが無限に大きくなり場のエネルギーが無限大になる「無限大」の問題を回避できる。電荷は(量子力学の電子の物質波のように)広がりを持った領域に分散して存在すると考え、「無限大」の問題を回避できる。

 constの値は、以下の考察で求める。空間的な境界面(時間方向での凹凸がある超曲面)の各部分dSkでの体積積分は、時刻t=aでの空間的な(凹凸の無い)超平面の各部分dS0での体積積分と同じ値になる。

そして、以下の考察を続けると、constの値が定まり、系の4元運動量に対する式(32.6)が得られる。

(この積分は、3次元空間内の全ての粒子の世界線と交差する、3次元座標方向の広がりが無限大の、空間的な4次元的超曲面で微小領域dSkで体積積分する。)
テンソルTikは系のエネルギー・運動量テンソルとよばれる。

(他の方法による保存量の存在の確認)
 保存量の存在の他の導出方法は、Tik =Jk という(パラメータ i 毎の)ベクトルJk の4次元発散が0であるとして、4元ベクトルJk に係る連続の方程式になっているとみなす。

つまり、Jk の時間成分J0 を電荷もどきの量とみなし、Jk の空間成分の3次元ベクトルを電荷もどきの流れとみなす。そうして、微小3次元領域に蓄積された電荷もどきが、流れ出したり流れ込んで、とにかく電荷もどきの総量が時間が変わっても保存される。そいう保存則を、その4次元発散が0になる式から把握しても良い。

(計算の見通し)
 以上で導出した保存則は、ネーターの定理の手順に従って、空間と時間の一様性(並進対称性)に基づいてエネルギーの保存則と運動量の保存則とを導出したと言える。すなわち、テンソルTik の性質に空間の一様性と時間の一様性が組み込まれていると言える。ここまでの解析での大事な注意点として、未だ、空間の等方性(方向対称性)を使った保存則(角運動量の保存則)は導出していない。空間の等方性はテンソルTik の性質に組み込まれていない。エネルギー運動量テンソルTik の性質を完全に確定するためには、更に、角運動量の保存則に係る空間の等方性(方向の対称性)の条件を加える必要がある。ここまでの計算では、その条件が未だ加えられていないので解析が不十分である。32節の最後に、不足している角運動量保存則の条件が付け加えられ、それによりTik の性質が確定される。
(見通しおわり)

《対称行列を求める課題》
 式(32.3)で求めたテンソルTik は対称行列ではなかった。式(32.6)の結果を変えずにテンソルTik を対称行列に変換する考え方が、32節の最後で、角運動量の保存則を導入する方法で記載されている。その前に、ここで、ちょっと寄り道をして、対称行列であらわされるエネルギー・運動量テンソルを、先に見つけておこう。

《粒子系のエネルギー運動量テンソル
 先ず、式(32.4)の意味を、以下のようにある密度で分布する粒子系に適用して考察する。ラグランジュ方程式(32.2)と、それから得られた方程式(32.4)は、一般座標qを場の一般座標だけでなく、座標の一般座標に係るラグランジアンも含めて記述されると解釈する。そう解釈すると、ラグランジュ方程式(32.2)は、場の方程式であるだけでなく、粒子系の方程式でもあると考えることができる(量子力学では粒子も場で記述されるので粒子も場の一種と考えて良いと思う)。そして、先ず、(32.4)式を、1つの i 成分に係るベクトルJk の式と考えて、以下の計算を行い粒子系のエネルギー運動量テンソルを考察する。

(この式は、3次元ベクトルである電流密度ベクトルJと、電荷の密度ρとであらわす、電荷の保存の法則の式に対応する。ただし、電荷の場合とは異なり、運動する「質量の密度ρの連続体」では、質量が運動によってγ倍になる(電荷は運動しても増えない)ので、μ≡ργという記号を導入して、この式をあらわした)。

すなわち、式(32.4)はJ0に対応する量μの体積積分が保存することをあらわしている。
《以上の式の前提条件に注意すること》
 以上の式では、静止した物体の質量と運動物体の質量(γ倍)が異なることが組み込まれているので、粒子の数が保存されると仮定することとの矛盾がある。粒子の数も保存されると仮定すると、以下の問題を生じる。運動していた粒子の運動質量が静止質量よりも余分な質量を持っていた。粒子が静止したときにその余分な質量の行き場を失わないために、何等かのメカニズムか必要である。その粒子が静止するためには、その粒子の余分な質量を他の粒子の運動に転化させる、粒子同士の衝突が必要だと考えなければならない。

 (エネルギー密度と運動量密度)
 質量が連続した密度分布を持つと考える。質量の密度というのは,相対論的に言えば「エネルギー密度」である。また同時に,単位体積あたりに存在する運動量「運動量密度」という概念も導入する。
 運動する「密度ρの連続体」のエネルギー密度は、運動によって質量がγ倍になるので、(静止系の観測者の)私にはγρc2に見えている。さて,本当にそれだけでいいだろうか。ローレンツ短縮により,連続体は進行方向に対して縮んでいるように(静止系の)私には見える。体積が縮んだ分だけ単位体積あたりの密度はγ倍に増加しているように見えるはずなのだ。よってエネルギー密度εは,γ2ρc2に見えているとするのが正解である。同様の理由で運動量密度πもγ2 ρvと表されることになる。これらを 4 元速度ui で表せば、以下のようになる。


これを美しくまとめて表現するために次のような対称行列を作ってやろう。

この対称テンソルTik を粒子の系のエネルギー・運動量テンソルと呼ぶ。
(ただし、上記のテンソルTik の式は、粒子系の流体の膨張する圧力が十分に小さく0とみなせる場合の式である。また、粒子系の流体の粘性も十分に小さく0とみなせる場合の式である。32節の主題からは外れるかもしれないが、運動する粒子系の集合(流体)には、巨視的な流体速度が現れる他に、膨張の圧力や流体の運動の粘性という、想定外の巨視的な物理量が生まれる。物理には、そういう想定外の面白さがある。)

 こうして、粒子系のエネルギー・運動量テンソルが対称テンソルであることがわかった。そのため、それと対になる電磁場などの場のエネルギー・運動量テンソルも対称テンソルにならなければならないことが分かる。

 なお、「粒子の系のエネルギー・運動量テンソル」は、「場の古典論」33節で初めて導入される。しかし、その導入の際に、定義無しでμ≡ργという記号をいきなり用いて、導入している。

その式が理解できずに挫折する学生も多いのではないかと思う。「場の古典論」は、数式の根底の記号の定義があいまいである、又は、定義がされていない、という致命的な欠陥があるのではないかと思う。

《場のエネルギー運動量テンソルの解析の再開》
 このように、対称テンソルであらわした粒子の系のエネルギー・運動量テンソルTは、比較的簡単な考察によって求められた。その結果から、電磁場のエネルギー・運動量テンソルも対称テンソルであるらしいことがわかった。しかし、粒子系の流体のエネルギー・運動量テンソルTとして対称テンソルの式を求めたが、そのテンソルTは、定義の自由度のうちの1つの解にすぎないと考える。すなわち、そのテンソルTが必ず対称テンソルになると保証されたわけではないと考える。そのため、以下の、物理法則の本質の考察によって、式(32.3)を糸口にして、エネルギー・運動量テンソルTが対称テンソルであることを導き出す。それにより、33節で電磁場のエネルギー・運動量テンソルを導出する準備をする。

 テンソルTik をラグランジアン密度Λで定義する式(32.3)は一般的にいって対称なテンソルTik をあらわしていない。特に、物理系が角運動量Mを持つならば、Tik は非対称になる。
 以下では、4次元発散の式(32.4)を満足するテンソルTik の定義が一義的でなく定義の自由度を持つことを示す。次に、その自由度を持つテンソルTから、テンソルTに係る全ての性質が完備されたテンソルTを作る。そして、完備されたテンソルTは対称なテンソルであることを示す。

テンソルφikmを微分した項の追加》
 式(32.3)で定義されるTik に対して、添え字kmに関して反対称なテンソルφikmに係る項を加えて以下の式(32.7)で表したテンソルも、式(32.4)を満足する。

すなわち、以下のように、反対象テンソルと対称テンソルの積の和を計算すると、

となるからである。

 式(32.6)の4元運動量Pi を求める積分は、3次元空間内の全ての粒子の世界線と交差する、x座標方向とy座標方向とz座標方向では無限遠までの広がりがある、空間的な4次元的超曲面の微小領域dSkで(標準的には平坦な領域dS0で)体積積分するものである。

 その式(32.6)に、式(32.7)の、テンソルφikmをxmで微分した項を加えた場合を考える。その項を、無限遠までの広がりがx座標方向と、y座標方向と、z座標方向にある空間的な4次元的超曲面(微小領域dSk≒dS0)で3次元体積積分する。その3次元体積積分は、以下の計算のように、超曲面のx座標かy座標かz座標かが無限遠の位置の超境界線(2次元面)での2次元面積積分に変換される。(詳しくは、ここをクリックした先の6節で説明しているように、4次元的超曲面(3次元体積)の、x座標方向の端の位置や、y座標方向の端の位置や、z座標軸方向の端の超境界線の位置での2次元面での超線積分(2次元面積分)に変換される。)

以上の計算では、x1 が無限大の位置でφikm=Akm の値が0になることを使った。


上図のように、x座標の±∞の位置での超線積分(2次元面積分)になることが重要な意味を持つ。微分形式の機械的な式変形によって超面積積分が超線積分になるという公式を表面的な理解だけで覚えているだけでは、この超線積分をx座標のどの値の位置で行うかの(x=±∞で行う)、具体的な超線積分の領域の位置の認識が抜け落ちるかもしれないと思う。


以上の計算では、x2 が無限大の位置でφikm=Akm の値が0になることを使った。


以上の計算では、x3 が無限大の位置でφikm=Akm の値が0になることを使った。

 以上の計算での、x座標方向とy座標方向とz座標方向では無限遠までの広がりがある空間的な4次元的超曲面(微小領域dSk≒dS0)の領域での体積積分は、x座標かy座標かz座標かが無限遠の位置の境界面での面積積分に変換される。その無限遠の位置には場も粒子もないから、この積分の値は0になる。

こうして、空間的な平坦な積分領域dS0 で計算したテンソルφの偏微分の追加項の積分の値は0になる。

 また、平坦な積分領域dS0 以外の、4次元空間内で凹凸のある空間的な超曲面は、その超曲面が微小な積分領域dSi 同士を、境界を重ね合わせて形成できる。その境界で重ね合わせた両dSi の、その境界での積分の値は正負が逆になる。そのため重ね合わせた境界での積分の値が相殺される。そして、境界で重ね合わせて連結した積分領域の露出する境界の積分値のみが残る。そのため、空間的な超曲面に4次元空間内での凹凸があっても平坦な積分領域と同じく、超曲面での超面積積分(体積積分)が境界積分(面積積分)に変換される関係があると考えられる。
 実際、そのようになっているかどうかを、以下の、(dx0)Λ(dx1) 面に垂直な3つの超平面を境界bと境界cで連結した超曲面を例にして、具体的に計算して確認する(ここをクリックした先の6節の説明にて、より詳しく説明している)。
 先ず、左端の境界aから境界bまでの部分を計算する。
k,m=0,2の部分も以下のように計算できる。

また、k,m=0,3の部分も以下のように計算できる。


 次に、境界bから境界cまでの部分を計算する。

k,m=1,2の部分も以下のように計算できる。

k,m=1,3の部分も以下のように計算できる。


 次に、境界cから右端の境界dまでの部分を計算する。

この計算だけで無く、k,m=0,2の部分も計算し、k,m=0,3の部分も計算するが、その説明は省略する。
 以上の3つの部分を合わせた、空間的な4次元的超曲面での積分の結果は以下の式にまとまる。(なお、積分の要素のdSk は、超曲面に存在する部分のdSk のみである)。

ここで、テンソルAkm が反対称テンソルなので、以下の関係が成り立つ。

そのため、先の計算の続きは以下のようになる。

以上の計算では、相殺されずに残った境界積分は全て、x1 やx2 やx3が±無限大の位置でのφikm=Akm の値(0になる)を使うので0になった。 こうして、dS0 以外の向きの面成分も持った凹凸のある超曲面で積分しても、テンソルφの偏微分の追加項の積分の値は0になる。

(補足)
 この、凹凸のある超曲面での反対称テンソルAik に係る積分は、以下の図のように解釈できると考える(そういうふうには考えにくければ、私のこの意見は無視してかまわない)。以下の図で、電気力線が凹凸のある超曲面上で表わされると解釈する。すなわち、「力線の源断面」と超曲面との交線が電気力線であると解釈するのである。そして、凹凸のある超曲面上での電場ベクトルのdivの体積積分と、その超曲面の境界を横切る電気力線の本数の積分との関係が以上の計算で扱われたと解釈する。

(補足おわり)

 こうして、dS0 以外の向きの面成分も持った凹凸のある超曲面で積分しても、テンソルφの偏微分の追加項の積分の値は0になる。したがって、空間的な4次元的超曲面での積分の式(32.6)であらわされる4元運動量は、テンソルφの偏微分の追加項を加えた式(32.7)のテンソルTに替えても変わらない、一義的に定まった量なのである。

 テンソルφの偏微分の追加項が加えられるので、テンソルTik の定義には式(32.7)の形の自由度があることがわかった。次に、そのテンソルTik が対称テンソルになる必然性を以下で示す。系の角運動量の4元テンソルが4元運動量によって表わすことができるという要求を使ってテンソルTik を調整すると、以下の計算によって必然的に、テンソルTik が対称テンソルになる。この要求を加える意味は、空間の方向の等方性の条件をテンソルTik を表す式に取り込み、その式があらわすテンソルTik の性質を完備させるという意味を持つ。

角運動量テンソルの保存》
 先ず、系の角運動量テンソルを以下の式(32.8)で表せるものとする条件を加える。

 ここで、以下の条件式(32.9)を加える。その理由は、そうすれば、式(32.8)で定義した角運動量テンソルMik が、以下の計算の通りに、保存される(時間が変わっても変わらない)結果が得られるからである。

 この条件の下で、ネーターの定理の手順に従って、以下の積分領域(空間的には無限大の広がりがあり、時間的にはt=aからbまで)で4次元体積の積分を行う。

ガウスの発散定理により以下の式が成り立つ。

0=右辺の式から、以下の結果が得られる。先ずは、空間的に無限遠方では、場が存在しないので、Tkn が0になるものとする。 

すなわち、角運動量テンソルMik が保存される(時間が変わっても変わらない)結果が得られた。

 このあと少し考察すれば、角運動量テンソルMik を保存するために導入した式(32.9)の条件を満たすテンソルTik は対称テンソルになることが導き出せる。そのため、エネルギー運動量テンソルTik は必然的に対称テンソルになる。

 Tik が対称テンソルになる結論は、場のエネルギー運動量テンソルTik に限定されない。式(32.1)のラグランジアン密度を粒子系のラグランジアン密度であると解釈すれば、式(32.3)は一般座標の関数の粒子の密度分布を持つ粒子系(流体)のエネルギー運動量テンソルTik を表していると解釈できる。すなわち、巨視的な流体速度が現れる他に、膨張の圧力や流体の運動の粘性という、想定外の巨視的な物理量も現れている粒子系の集合(流体)のエネルギー運動量テンソルTik を表していると解釈できる。上記の考察によって、そういう粒子系でのエネルギー運動量テンソルTik も対称テンソルになる。

 また、ここをクリックした先の非相対論的な力学を教える文献でも、同様なことが説明されている。「角運動量保存則は、角運動量の時間変化率がトルクの和に等しいとして表される。」とあり、その関係を利用して角運動量保存則が成り立つ場合を解析すると、応力テンソル(エネルギー運動量テンソルに対応するテンソル)が対称テンソルになることが導かれる。逆に,応力テンソルが対称であることにより,角運動量保存則が満たされることが示される。
 ここをクリックした先のサイトにも、非相対論的力学で、応力テンソル(エネルギー運動量テンソルに対応するテンソル)が対称テンソルになる理由が説明されている。

 ランダウの「場の古典論」だけに、この相対論的エネルギー運動量テンソルTik が、角運動量の保存則を組み込むことで対称テンソルになる理由が書かれているのではないかと思う。物理の参考書毎に、著者のオリジナルな説明があって、全てが書かれている参考書は無いのではないかと思う。全分野の物理の参考書をいくつも読んで物理知識を全力で連携していく必要があると思う。また、自分で計算して確認して自力で理解することで、
物理の参考書に書かれている説明の行間を埋めていく必要があると思う。

 これで、やっとのことで、次の33節で電磁場のエネルギー運動量テンソルTik を導き出す準備が整った。
(注意点)
(1)場のエネルギー運動量テンソルTが対称テンソルである条件として、場の一般座標qi である場の4元ベクトルAi の関数として記述される場のラグランジアンが、空間の方向を変えても変わらない空間の方向対称性(空間の等方性)がある条件が必要です。
(2)同様に、一般座標xi の関数の密度分布を持つ粒子系の流体のエネルギー運動量テンソルTが対称テンソルである条件として、その粒子系のラグランジアンが、空間の方向を変えても変わらない空間の方向対称性(空間の等方性)がある条件が必要です。

【リンク】
pdf 古典力学 (解析力学)
東京大学数理物理学班「古典力学」
「高校物理の目次」